Season 1:はじまりの軌道(オービット)
第2話:眠る月の衛星
ルナは頬をぺたんと窓に押しつけていた。
視線の先には、灰色の静かな月。その軌道上に浮かぶ古い補給衛星「シルヴィア」の姿が、星屑の中にぼんやりと浮かんでいた。
「ねえセラ、このステーション、まるで“宇宙のおばあちゃんの家”みたい」
「どういう例えよ……」
コックピットにいるセラは、無言で航路補正の計算をしていた。マイペースな妹の声は、BGMのように慣れっこだ。
到着した「シルヴィア」は無人。現在は引退状態にあるが、母の最後の通信ログがこの周辺で途絶えているという。
「セラ、このドア……開かないや」
「だから、慎重にやれって言ったのに」
セラが背後からサブキーを差し込むと、扉がぎぃ……と軋んだ音を立てて開いた。
内部は、まるで時間が止まっているかのようだった。
点滅する旧式ランプ、埃っぽい空気、無重力にふわふわと漂う金属片。
「わあ……ほんとに眠ってるみたいだね」
「手分けしてスキャンしよう。私はログ端末を探す。ルナは……そっちの区画を」
「ほいほーい。おばあちゃん家の物置みたいな匂いがする〜」
ルナが漂うように別の部屋へ移動していった直後だった。
——ビー……ッ。
セラのポータルに、強いノイズとともに未知のシグナルが割り込んだ。
「……ル、ナ……わ、た……しを……」
「今のは……?」
セラは息をのんだ。
音声は乱れていたが、確かに「ルナ」と呼んでいた。
その頃、別室にいたルナは、古びた記録装置の隙間から、キラリと光る青い石のような物体を見つけていた。

手に取った瞬間、頭の中に直接、誰かの「声」が響いた。
「君……は、ルナ……だね?」
🔮 次回予告
青い結晶体から聞こえた“声”の正体を追い、姉妹はステーション内の深部へ。
そこで彼女たちが出会ったのは、かつて母が残したAI――LUNA。
記録と記憶、その狭間で揺れる心と向き合う時が来た。
第3話:プログラム“LUNA”
““記憶に眠るもうひとつの私””
コメント