Season 1:はじまりの軌道(オービット)
第1話:はじまりの夜
宇宙ステーション「ノヴァ・リング」の軌道上。
静まり返った居住ブロックの一室で、セラはタブレットを見つめていた。
そこには、母が失踪する直前に記したと思われる映像ログの一部が映っていた。
音声は乱れ、映像は途切れ途切れ。それでも、はっきりと母の声が聞こえた。
「……セラ、ルナ……。この先、きっとあなたたちが……星の扉を……」
セラは画面を指先で止めた。
彼女の目は鋭く、どこか決意に満ちていた。
「ルナ、やっぱり……母さんの失踪はただの事故じゃない」
背後からルナの声が返ってくる。
「それ、さっきも言ってたよ~。……でも、今は寝よう? 明日、ついに旅立ちでしょ」
ルナはベッドに寝転びながら、無重力でふわふわと揺れていた。
髪がゆるく宙に舞っている。マイペースなその様子に、セラは小さくため息をついた。

「……緊張、しないの?」
「しないっていうか、ちょっと楽しみ。初めての姉妹ミッションだもんね」
「任務だよ。ただの家族旅行じゃない」
「わかってるって。でもね、セラ。あたし、母さんが今も宇宙のどこかにいるって……なんとなく、感じるんだ」
その言葉に、セラはわずかに目を見開いた。
彼女は、理屈と計画を大事にしてきた。
だが、ルナの“なんとなく”は、時に不思議な正しさを持っていた。
「明日、答えを探しに行くよ。母さんが何を残したのか。なぜ消えたのか。全部」
「うん……一緒にね」
二人は、それぞれのベッドに体を沈めた。
部屋の照明が落ち、宇宙の青い星の光だけが窓の外ににじんでいた。
翌朝。ドックエリアにて。艦船《セレスティア》が、発進のカウントダウンを始めていた。
「10、9、8……」
セラはすでに宇宙服に身を包み、コックピットで最終チェックをしていた。
その隣には、まだヘルメットもかぶらず、のんびりとアメをなめているルナの姿。
「……アメなんか舐めてる場合?」
「集中すると口さみしくなるんだもん。でさ、セラ」
「何?」
「このミッション終わったら、星くんって名前の猫型ロボ飼っていい?」
「はあ?」
呆れながらも、セラの口元がわずかに緩んだ。
「3、2、1……発進」
光の尾を引きながら、《セレスティア》は軌道を離れ、加速する。
双子の姉妹を乗せて、未知の宇宙への扉が、いま開かれた。
🔮 次回予告
ルナが見つけた、小さな青い結晶体——。
その中に秘められた“声”が、姉妹を未知の真実へと導いていく。
次回:「第2話:眠る月の衛星」
“この声……誰?”
👉 第2話を読む
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