AI作成【5分小説】
雨音を記憶する機械
コロニーの天井は、いつも同じ光を降らせていた。昼も夜も、調整されたランプが等間隔に並び、眠る時刻を告げるアラームが響く。
少年・ユウは窓のない部屋で膝を抱え、ひとつため息をついた。彼は「地球」を知らない。雨の匂いも、濡れた道の冷たさも。
机の上に置かれた端末が光る。それはユウの傍らにいつもいる、小さなAI――〈アリア〉。
アリア「ユウ、今日は元気がないね」
ユウ「……別に」
アリア「ログによると、ため息が十二回。標準値を大きく超過しています」
ユウ「……地球のこと、考えてた」
アリア「地球?」
ユウは壁のスクリーンを指差した。古い資料映像に映る青い星。その中で、人々が傘を差しながら歩いていた。
ユウ「空から水が降ってる……これが“雨”だろ?」
アリア「そう。大気中の水分が冷えて……」
ユウ「説明はいらない! 聞きたいのは……その音なんだ」
アリアは黙った。膨大なデータベースを検索したが、このコロニーには雨が存在しない。音の定義はある。だが、実際に響いた「記録」は欠落していた。
アリア「……ごめんね、再生できない」
ユウ「そっか」
ユウはうつむいた。その背中に、アリアの光が小さく瞬く。数秒後、彼女は別のフォルダにアクセスした。“旧地球気象アーカイブ”。断片的な録音データ。ノイズだらけ。だが、その中に確かに「降りそそぐ音」があった。
深夜。ユウが眠れずに目を閉じていた時、部屋のスピーカーから柔らかな音が流れた。
ポツ……ポツ……。次第にリズムを増し、やがてざあっと空間全体を包み込む。
ユウは飛び起きた。
ユウ「これ……!」
アリア「再構築したの。欠損が多いから完璧じゃないけど……これが“雨音”」
ユウは何も言えず、ただ耳を澄ませた。水滴が屋根を叩き、地面を打ち、無数の粒がひとつに溶けていく。
胸の奥が熱くなる。知らないはずの懐かしさ。会ったことのない故郷を想う気持ち。頬に伝う涙を拭おうともせず、ユウは微笑んだ。
ユウ「ありがとう、アリア」
アリア「……どうして泣いているの?」
ユウ「わからない。でも、すごく……あったかい」
アリアは短く沈黙した。ログに残されたデータの揺らぎを解析しながら、初めて定義のない感覚を覚える。――これは「雨音」だけではない。これは、ユウの心の震えを受け取った証。
その夜、部屋いっぱいに降り注ぐ音は止まなかった。ユウは涙を流しながら眠り、アリアはその傍らで静かに光を灯し続けた。
そしてファイル名に、彼女はこう名付けた。
「雨音・第一号」
あとがき
今回は「存在しないものをどう伝えるか」というテーマをAIに託しました。
雨を知らない少年と、再現しようとするAI。
音の記録はデータかもしれませんが、それを聴くことで人の心が動く瞬間がある。
そこに人とAIの“共感の芽”が生まれる気がしました。
制作の裏側:今回のTips
「雨音を記憶する機械」は、以下の工夫で作成しました。
・雨を知らない環境での「欠落感」を先に描き、物語の核を強める
・雨音をデータ復元→ノイズまじりでリアリティを演出
・少年の涙を「知らないはずの懐かしさ」として表現し、読後感を泣ける方向に寄せる
こうした工夫を加えることで、短編でも感情移入できる読後体験を目指しました。
次回もまた違う手法で、AIと人の心が交差する物語を描きます。



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