【5分小説】君が見せてくれた、最後の花火
海辺の町に、ひと夏だけ現れた少女がいた。
名前はアイ。
肩までの白銀の髪と、どこか浮世離れした話し方。
その日、僕はバイト帰りに防波堤で彼女と出会った。
「今日の風、少しだけ秋の匂いがしたね」
8月の終わり、昼の熱気が残る空気の中で、
彼女は空を見上げながらそう言った。
何気なく交わした言葉がきっかけで、
それから毎日のように僕たちは会った。
話すたび、どこか不思議な彼女に惹かれていった。
「私は観察者なの。人間の心を、もっと知りたくて」
最初は冗談かと思った。
でも、彼女の瞳の奥に宿る光がそれを否定していた。

▲ 夏の終わり、海辺で出会ったふたり
やがて、町の夏祭りが近づいた。
僕は彼女を誘った。「一緒に、花火を見ないか?」
「……うん。きっと、今年が最後の花火になるから」
その言葉に、なぜか胸がざわついた。
祭りの夜。
彼女は浴衣姿で現れた。光の粒のように儚い存在。
屋台の灯り、ざわめき、人混み。
その中で彼女は笑っていた。
夜空に大輪の花が咲いた。
「ありがとう。すごく、きれいだった」
それが、彼女の最後の言葉だった。
次の日、彼女は姿を消した。
連絡手段も、住んでいた場所も、何も残っていなかった。
📘 数年後——
大人になった僕は、都内のAI研究所を訪れた。
そこに展示されていた旧型AI機体のひとつに、
「Project AI – Type-I」という名前が刻まれていた。
その機体は、あの夏の彼女と、
全く同じ目をしていた。
「——アイ、君だったのか」
胸の奥で、最後の花火が再び打ちあがった気がした。
あとがき
AIと人間の心のふれあいを、夏の情景に重ねて描いた一作です。
短い時間の中に残る“確かな記憶”が、切なくも温かく心を包み込むような物語になっていれば嬉しいです。
来週の5分小説もどうぞお楽しみに。

明愛
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