【5分小説】僕らの旅は、まだ始まったばかりだ
――記憶を失った少年と、AIの相棒が歩き出す、終わらない冒険
風が、乾いた大地をなでていた。
ひび割れた地面に寝転ぶ僕の顔を、灰色の空が覆っていた。
「……ここは……?」
口にした声がかすれていた。
頭が重く、思い出せない。
名前も、過去も、自分が何者かさえも。
「おはようございます。目覚めてくれて、よかった」
その声に振り返ると、
空中に浮かぶ銀色の球体がこちらを見ていた。

「私は探索支援AI、ユノ。あなたのパートナーです。
ここであなたを待ち続けて、127年と243日が経過しました」
127年――?
理解が追いつかない僕に、ユノは落ち着いた声で語り始めた。
「この星は、かつて“地球”と呼ばれていました。
しかし汚染と戦争で、人類は宇宙へ退避。
あなたは……最後にこの地に残った人物です」
全てが夢のようだった。
僕の記憶は失われていた。
ユノによると、記録はあるが“アクセス不能”らしい。
目の前に広がるのは、瓦礫と赤茶けた空だけ。
生命の気配など、どこにもなかった。
「軌道上に浮かぶ都市《セレスティア》を目指しましょう。
そこには人類の記録、そしてあなた自身の記憶もあるかもしれません」
「僕がそこに行けば……わかるのか?」
「はい。すべてが、とは限りませんが」
不確かだった。
でも、このまま立ち止まっていても、何も始まらない。
僕は一歩、足を踏み出した。
乾いた砂が、足元で静かに崩れる。
「一緒に来てくれる?」
そう尋ねると、ユノのレンズが、ふっとやわらかく光った。
「もちろんです。あなたは、私の大切な“依頼主”ですから」
銀色の球体が、くるりと空中を回って先へ進む。
その後ろ姿を追いながら、僕も歩き出した。
空の向こうに、かすかに青い光が差し込んでいた。
📘 あとがき
記憶を失った少年と、127年間待ち続けたAIユノ。
わずかな光に導かれ、ふたりの旅は今、はじまりました。
この物語は一話完結の5分小説ですが、
もし続きを読みたい方がいれば、「シリーズ化」も検討したいと思います。
「AIと人間の冒険」をテーマにした作品、これからも書いていきますので、ぜひ応援してください。
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