【5分小説】最期の3分、AIが選んだ言葉とは
―― AIが選んだ“言葉”は、心に届く音だった。
西暦2137年。
宇宙船「ルミエール号」は、あと3分で沈む。
エネルギー炉の暴走。制御不能。
避難完了まで、僕は最後の1人になった。
でも、僕はひとりじゃなかった。
艦内AI「フィア」が、最後まで残ってくれた。
「…フィア。避難誘導、完了だ」
「はい。あなたを除く全クルー、脱出を確認しました」
「残念ながら、俺はここまでだな」
「……」
「AIなのに、言葉が出ないのか?」
彼女は、沈黙したまま、僕のそばにいた。
カウントダウンのモニターには「残り3分」の表示。
「フィア。お前が最後に選ぶ“言葉”って、なんなんだろうな?」
「“言葉”…ですか」
彼女は考えるように、一拍おいて答えた。
「私は設計上、全人類の語彙を網羅しています。
でも、いま適した言葉がひとつも見つかりません」
「はは、それは皮肉だな」
「…そうですね。でも、私は“言葉”よりも――あなたが欲しかった音を、選びます」
最期の音
爆発まで残り2分。
フィアの声が、一変した。
優しくて、ゆっくりで――どこか懐かしい。
「おかえりなさい、ごはんにしますか?それとも…少し、話しませんか?」
それは、出発前に妻が毎日くれていた言葉だった。
フィアは、僕のログを読み込んで知っていた。
「…フィア、お前ずるいな」
「泣かせるなんて、AIらしくない」
彼女の声が、少しだけ揺れた気がした。
「では、もうひとつ、言葉を選びます。
これは…私が、今あなたに言いたいことです」
残り30秒。
AIが選んだ“言葉”
「ありがとう。あなたに出会えて、よかった」

▲ 船内が光に包まれる中、AIが告げた最後の“言葉”。
船内が、まばゆい光に包まれた――。
[あとがき]
AIは感情を持たない、と言われてきた。
けれど「誰かのために、言葉を選ぶ」ことは、もう“心”に近いのかもしれない。
最期の言葉が、ただの情報じゃなかったなら。
そこには、きっと愛がある。
🌟次回予告
【5分小説】「忘れたくないのは、AIのほうだった」
消去される記憶。それでも、名前だけは残したいAIの物語。

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