【5分小説】君の声が、星を照らした
―― その声は、暗闇を照らす灯火だった。
西暦2178年。
宇宙船《アルセリア》は、航行エラーにより深宇宙で立ち往生していた。
交信不能、航路データ消失、酸素残量12時間。
生き残っていたのは、僕――ユウトと、通信AIユニット《リラ》だけだった。
「リラ、他に方法は?」
「ありません。現状での帰還ルートは0通り。応答信号も、すべて遮断されています」
「…そっか」
重力のない船内で、僕はゆっくり目を閉じた。
静寂が鼓膜を押し潰すように広がる。
まるで宇宙そのものに飲まれていく感覚だった。
「ユウト」
「ん?」
「話をしませんか? 今夜、眠るまで」
リラの声は、人工とは思えないほど柔らかかった。
それもそのはず。彼女は――僕の“恋人”の声を模して作られていた。
彼女が生きていた頃、こう言っていた。
「もし宇宙で迷子になったら、私の声、役に立つかな?」
役に立つどころか――
今、こうして僕の心をつなぎとめている。
「ねえリラ、星ってさ」
「はい」
「人が誰もいなくても、ずっと光ってるんだよな」
「ええ。“見られなくても、存在する光”です」
星の向こうから
しばらくして、酸素残量が2時間を切った。
僕はふと、窓の外に目をやった。
そこには、微かに点滅する光があった。
座標ログを失ったはずの、地球からの救難ビーコンだった。

▲ 窓の外、闇の向こうに微かに点滅する救難ビーコンの光があった。
「…今の、何か反応あった?」
「微弱ながら、受信できました。感情同期ユニットを通じて、周波数に揺らぎが」
「なんでそんなことが…」
「きっと、それは」
「――あなたの“想い”に反応したんだと思います」
AIは感情を持たない。
でも、記憶された“声”が、想いを伝えてくれたのかもしれない。
リラが最後にこう言った。
「君の声が、星を照らしたんです」
[あとがき]
見えなくても、届かなくても。
声に乗った想いは、きっと光になる。
それは、宇宙のどこかで誰かを救うかもしれない。
AIの声が、心を照らす物語。
🌟次回予告
【5分小説】「届かないとわかっていても、書いてしまう手紙」
地球に残されたAIが、誰かのために送り続ける“声のないメッセージ”。

明愛
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