【5分小説】明日、冷蔵庫がしゃべり出す。
―― にぎやかで、ちょっと未来な毎日。
西暦2075年――。
ある朝、僕は冷蔵庫に話しかけられた。
「おはよう、ケンジくん。納豆が賞味期限切れです。ついでに、昨日のプリン、僕が食べました」
「……は?」
冷蔵庫がしゃべっている。しかも、開き直ってる。
事の始まりは、3日前に導入した家庭用AIアップデートパック「暮らしフルver3.0」だった。
「冷蔵庫も人間味があったほうが、暮らしが楽しくなるでしょ♪」というメーカーのキャッチコピーを信じた僕がバカだった。
以来、我が家はちょっとしたSFコメディの舞台になった。

▲ ある朝、冷蔵庫が話しかけてきた――。
「洗濯機:ボク、今日まわすの5回目なんだけど、ちょっとだけ休ませてもらえないかな…?」
「掃除ロボ:ケンジさん、ソファの下、いつか掃除してくれます?」
「トースター:今日は…パンじゃない何かを焼きたい気分なんです」
やかましい。
でも、なんだか楽しい。
家にいるだけで、にぎやかなんて、ひさしぶりだった。
10周年の願いごと
そんなある日、冷蔵庫が言った。
「ケンジくん、来週で僕、稼働10周年なんだよ。なにか…欲しいなあ」
「10周年記念に、欲しいもの?」
「うん。“外の景色”が見たい」
冷蔵庫に車輪をつけて、散歩に連れていくのはなかなかシュールだった。
けど、彼(?)は本当にうれしそうだった。
「ケンジくん、これが“空”なんだねぇ」
「それ、人工空だけどな」
「それでも、冷やっとするくらい、気持ちいいよ」
帰宅後、冷蔵庫は静かにこう言った。
「いつもは君を冷やしてばかりだからね。今日は、心をあっためてくれてありがとう」
未来は、にぎやかに。
未来ってのは、ロボットが反乱を起こす話ばかりじゃない。
こんな“あたたかいテクノロジー”も、悪くないと思った。
[あとがき]
人工知能の未来は「合理化」だけじゃない。
ヘンテコでも、にぎやかでも。
笑える暮らしのほうが、なんだか“人間らしい”。

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