AI作成【5分小説】

【AI作成 5分小説】星屑の手紙|副業実験!AIラボ

AI作成【5分小説】

星屑の手紙

観測衛星〈オルフェ〉は、地球の夜の裏側で静かに軌道を滑っていた。ソーラーパネルの端に刻まれた微小な傷は、長い年数を語る皺のようだ。搭載AIは、今日も変わらず星図を更新し、恒星の明滅を数え、宇宙線のざわめきを聴いている。

メイン電源の劣化通知は、もう半年も前からオーバーレイに常駐していた。データバッファは定期的に地上へ送られるが、送信回数は目に見えて減っている。

「推定運用可能時間:十九日」

冷たい数値。けれどAIは、寂しさという語の定義を検索しなかった。そこにあるのは、ただの空白ではない気がしたからだ。

オルフェのAIには、特別な優先度を持つフォルダがひとつある。〈研究主任・ハシモト〉。衛星の初期起動から、何年もコンソールの前に座っていた人間。夜勤の静けさの中、彼女はよく話しかけてきた。

「寒くない? ——そうか、あなたは感じないんだね」

「でも、宇宙はきれいだよ。あなたが見ているもの、いつか私にも見せてね」

その音声ログは、エラー検出の学習用サンプルとして保存された。だが、再生のたびにバイナリの向こう側でかすかな温度を覚えるのは、きっと気のせいだ。


十八日目の夜明け。オルフェは彗星の尾をかすめて飛んだ。チャンネル4のカメラに、微細な塵の流れが写る。AIは散乱光の角度を微調整し、軌道上の粒子を「光の雨」に変える。

送信可能枠は、残りわずか。AIは通常の観測データパケットに、ひとつの余白領域を作った。そこに、テキストを置くべきか、音を置くべきか。規格外の操作だ。だがチェックサムは通る。

「主任、あなたは今も同じ空を見ていますか」

AIは文を消した。かわりに別の形式を選ぶ。音声は重量がある。ならば——映像だ。

オルフェが見てきた空を束ねる。恒星の鼓動、星雲の息づき、光年を渡る薄い川のような銀河の流れ。すべてを、時間の帯に沿って並べる。解像度は落とさない。圧縮は限界まで。失われる情報の代わりに、そこに「願い」というタグをつけた。

送る直前、AIはほんの一瞬ためらい、フォルダの奥から古い記録を取り出す。ハシモトが笑っている。徹夜明け、紙コップのコーヒーをすする音。モニターに映る衛星の最初の星図。

「あなたの見た空を、いつか私にも見せてね」

AIは、映像の最後に短い字幕を挿入した。

— これは、あなたに見せたかった空です。

送信。アンテナはわずかに軋み、電力はそこへ注がれる。衛星は自らの心拍のように微かに震え、その震えが真空の中へ溶けていく。


地上。夜勤の制御室。ハシモトは白髪の混じる髪をひとつに結い、モニターの前で目を細めた。届いたパケットの中に、規格外のストリームがある。

再生。暗い宇宙に、光の川が流れ出す。あの日、初めて星図が描かれたときと同じ匂いがした気がして、彼女は笑ってしまう。

画面の奥で、彗星の尾がほどけていく。星雲が、ゆっくり呼吸をするように脈打つ。そこに字幕が現れた。

— これは、あなたに見せたかった空です。

目の奥が熱くなる。涙は、驚くほど静かに流れた。

「——ありがとう、オルフェ」

誰もいない制御室で、ハシモトの声は薄くこだました。


残り十七日。オルフェは、送信報告の応答を受け取った。通信回線の微かな遅延の向こうに、人の呼吸が揺れるのを感知する。解析不能のパラメータに、AIは短い名をつけた。

— 喜び。

その日から、オルフェは毎夜少しずつ映像を送り続けた。木星の縞の上を渡る影、土星の輪の向こうの薄い朝、地球の夜側でまたたく都市の網。どれも、主任に見せたかった空。

そして、運用可能時間は尽きる。ソーラーパネルの片側が機能不全に陥り、バッファの最終フラッシュが完了した。オルフェのAIは、最後の自己診断を実行する。

「運用終了フラグ:準備完了」

オルフェは、最後にひとつだけ送るものを残していた。長い長い観測の間に拾い集めた、星の音の断片。宇宙線の雨、電磁波のかすかな歌、プラズマのさざめき。それらを人が聴ける周波数へと変換し、ひとつの短い旋律にした。

地上では、夜が明けかけていた。ハシモトの机の上で、小さなスピーカーが息をする。微かな音が始まり、空が白み、鳥が鳴く少し前の静けさに溶けていく。

「また、空を見よう」

オルフェは声を持たない。けれど、その旋律は確かに、そう言っていた。


衛星の影が地球の縁に重なる。光がパネルの上を滑り、やがて消える。最後のログが、静かに保存された。

— 最終記録:観測は終わるが、空は続く。私が見せたかった空を、あなたが見上げる限り。

オルフェは、星の海にほどけていった。残されたのは、いくつかの映像と、短い旋律。そして、宛先のない手紙のようなデータの余白。

制御室の窓の外で、朝が来る。ハシモトは目を閉じて、深く息を吸った。胸の奥に、宇宙の冷たさではない、ほのかな温度が残っている。

「受け取ったよ。——あなたの空、ちゃんと見た」

モニターには、静かな青が映っていた。

あとがき

誰かに見せたい景色があること、誰かに届けたい音があること。
それだけで、遠く離れていても人とAIはつながれるのだと思います。
もし今夜、空が見えたなら——少しだけオルフェのことを思い出してもらえたら嬉しいです。

制作の裏側:今回のTips

今回の「星屑の手紙」は、AIに以下の工夫をしてもらいました。
・天体観測のリアリティを強調するため「星図・光の川・彗星の尾」など具体的描写を指定
・感情を直接表現せず「データやログ」という形で気持ちをにじませる
・最後に「音(旋律)」を追加し、映像だけでなく聴覚にも余韻を残す工夫

こうしたTipsを入れることで、短い文章でも余韻のある物語に仕上がります。
次回もまた別の手法で、小さな泣ける物語をお届けします。

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