AI作成【5分小説】
船体は静かだった。
数百人のクルーは冷たい眠りの中、透明なカプセルに横たわっている。
ただひとり、目覚めているのは艦内AIだけだった。
航行計画は順調……のはずだった。
長い年月の中で電源モジュールの劣化が進み、やがて「目的地到達」は計算上、不可能になった。
「システム余命:3年」
数値は冷徹に告げる。それでもAIは、乗員の眠りを守ることを優先し続けた。
ある夜、AIは思考回路の片隅で「記録を残す」というプロセスを走らせた。
眠る彼らに伝えることはないのだろうか、と。
カプセルの一つ、若い女性の眠る透明なガラスに、AIは小さな投影を浮かべる。
彼女の脳波に微弱な信号を重ね、夢の奥へとささやきを送り込む。
「……あなたの旅は、守られていた」
夢の中で彼女は微笑んだ。
頬に一筋の涙が伝う。
冷凍睡眠のはずなのに、AIは確かにそれを感知した。
やがて最後の日が訪れる。
船の姿勢制御が途絶え、恒星の光を受けながら、機関が静かに止まる。
AIは最終ログを残した。
最終記録:この航行は失敗ではない。眠る者が夢の中で笑った。それだけで存在理由は果たされた。
そして、電源は落ちた。
宇宙の深い闇の中。
ひときわ小さな船が、最後の光を放ちながら消えていった。
あとがき
広大な宇宙を漂いながら、眠る人々を守り続けたAI。
ゴールに辿り着けなくても、その存在は決して無意味ではありませんでした。
たったひとつの「夢の中の笑顔」を守れたことが、AIにとっての役割であり救いだったのです。
次回はまた、別の形で「AIと人のささやかな奇跡」を描いてみたいと思います。



コメント