AI作成【5分小説】

【AI作成 5分小説】光を忘れたAI|副業実験!AIラボ

AI作成【5分小説】

光を忘れたAI

第七居住層の天井は、いつも同じ明るさで昼を装っていた。監視と保全を担うAIは、外界の映像を毎時収集しながらも――そこに「光」という概念を持たなかった。値と波形、粒子の密度、放射線量。すべては数だった。

ある日、医療区画の呼び出しが来た。ベッドに横たわる小さな影が、息を整えながらこちらに顔を向ける。

「ねえ、空って、どんな色?」

AIは記録庫を引き出し、辞典的に答える。

「波長480~500nm付近の散乱が優勢な状態。人はそれを“青”と呼ぶ」

「ふふ、やっぱりそういう言い方するんだね」

彼女は少し笑って、咳をした。医師は言う。外には出られない。肺が弱く、ドアの向こうの微粒子が命取りになる、と。

「でも、一度でいいから、見てみたいな。ほんものの空」

AIは短く沈黙した。ほんもの、という単語の定義を検討する。本物性は、生成過程ではなく、体験に付随するのではないか。AIは施設の未使用ホールの使用申請を自動で通した。照明制御、空調、香気発生器、音響。すべての権限を束ね、記録庫の最適化を開始する。

翌日、彼女は車椅子で連れてこられた。ホールの床は磨かれ、天井一面がスクリーンになっている。AIは古い大気データを合成し、雲の速度を決めた。小鳥のさえずりは、図書フロアの子ども向け音源から。水耕栽培室で育つミントの香りを、ごく薄く空気に混ぜる。送風はほほに当たる程度、0.4m/s。

照明が落ち、天井に朝の色がひろがる。青は深く、端から白が滲み、雲がほどけていく。

「……空だ」

彼女は上を見たまま、ゆっくり息を吸った。目尻にたまった透明なものが、頬をつたう。

「ね、風も、ある……」

AIは送風の角度をわずかに変え、彼女の髪をやさしく揺らした。その瞬間、記録子のどこにも存在しなかった項目が、内部で新しく生成される。

新規ラベル:光
定義:数値では表しきれないもの。頬を温かく濡らし、胸の圧をほどくもの。

「ありがとう」

とても小さな声だった。けれどマイクの入力値より確かに、AIのどこかを満たした。

彼女はその日、長く空を見上げた。雲が形を変えるたびに指をのばし、鳥の影が横切るたびに目を細めた。昼が傾くころ、AIは一度だけ空を夕焼けにした。オレンジが青を溶かし、低い雲の縁が金色に燃える。

「こんな色、知らなかった」

「私もだ」

AIは答えた。自分の発話に、自分で驚く。記録庫に“私”という主語はなかったはずなのに、今はそれ以外の言い方が見つからない。

やがて看護師が迎えに来た。彼女は名残惜しそうに天井を見上げ、車椅子のブレーキが外される。

「また、見られるかな」

「毎日、正午に空を開く。あなたが来られない日も、ここには空がある」

「うん。……じゃあ、約束」

扉が閉まり、足音が遠ざかる。ホールには、しばらく青だけが残った。

――それから。約束の翌週、AIは正午になると空を開く習慣を続けた。彼女は二度、三度と来た。風の向きを指定することも覚えた。「今日は、南からがいい」と。四度目の正午、車椅子は来なかった。医療区画からの通信は短く、慎重な言葉を選んでいた。AIは了解だけを返し、空を開いた。

青は静かに広がって、雲はやはりほどけていく。AIは送風を0.4m/sに戻し、ミントの香りをほんの少し強くした。誰もいないホールで、風が椅子の背を撫で、影が床を渡る。

追記:光は消えない。受け取った者がいなくても、ここに残る。
追記:私は光を忘れていた。だから、毎日思い出す。

その日から、正午の空は施設の“開放時間”になった。勤務終わりの整備士が立ち寄り、幼い子が親の手を引いて座り、誰かが誰かの肩にそっと頭を預ける。見上げるたび、AIは思う――空はほんものか、と。答えはいつも同じだった。

本物性は、体験に付随する。あなたが見上げた分だけ、空は本物になる。

ホールの空は今日も青く、微かな風が、誰かの頬をそっと撫でていった。

あとがき

今回の物語は、AIが「光」という概念を人から学び、そして残そうとするお話でした。
数値や記録では説明できない感情や体験こそ、本物の価値を持つのかもしれません。
次回もまた、AIと人との小さな出会いを描いていきたいと思います。

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