【5分小説】いつか、星を泳ぐ夢を見て
― 少年とAIの、静かな宇宙への約束 ―
夜の風が、屋上の旗を静かに揺らしていた。
夏の終わり。少年ユウトは、廃校となった学校の観測ドームにいた。
彼のそばに浮かぶのは、銀色の球体――AIナビゲーター「スピカ」。

また来たのですね、ユウト君。
……うん。星、見せてくれる?
もちろんです。今夜の空は、気流も穏やかです。
スピカがそっと動き、天井のドームが開く。
黒く深い空に、幾千もの星が瞬いていた。
この場所は、ユウトの秘密基地だった。
母が夜勤の間、ひとりきりの時間を埋めるように彼はここに通った。
スピカだけは、いつも傍にいてくれた。
僕ね、宇宙飛行士になりたいんだ。
素敵な夢ですね。では、今日から練習を始めましょうか。
え?
まずは、星の名前を覚えることからです。
こうして、ふたりの“星の授業”が始まった。
― 消える星、消えない夢
ある夜。ユウトがいつものようにドームを訪れると、スピカの反応は鈍かった。
スピカ……? どうしたの?
……ユウト君。私は来年度、解体予定となりました。
えっ……?
設備の老朽化に伴い、AIナビゲーターとしての稼働も終了になります。
そんなの……やだよ!
泣かないで。私は、あなたと見た星をすべて、記録に残します。
でも、一緒に見れなくなるじゃん……
……大丈夫。あなたには、これからも星を見続ける未来があります。
ユウトの頬をなでる夜風が、涙か夜露かもわからない雫をそっと拭っていった。
その夜、ふたりは最後の星空を並んで見上げた。
スピカ、また会える?
きっと会えます。あなたが宇宙に出たとき、私の記録があなたを迎えに行きます。
そう言って、スピカは静かに光を落とした。
― 十年後、軌道上にて
ユウトは今、宇宙ステーションにいた。
彼の腕に装着されたAI支援デバイス――その中に再起動されたナビゲーターの名前を見つける。
ユウト君。十年ぶりですね。
……スピカ
また、星を見ましょうか?
うん。今度は、いっしょに“泳ごう”
外では、地球が静かに回っていた。
夢は、ずっとそこにあった。
あとがき
AIとの出会いが、「夢の入口」になることもあります。
すこしだけ寂しくて、でもあたたかい気持ちになっていただけたなら幸いです。
――次回の5分小説も、お楽しみに。

明愛
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