Season 1:はじまりの軌道(オービット)
第4話:始まりの記録(メモリー)
記憶のかけらを……?」
セラが問い返すと、AIプログラム“LUNA_013”の声が再び船内に響いた。
「このデータ群は、かつて“ナナミ・カナエ”博士によって作成された観測記録および……個人的なログを含みます」
ナナミ・カナエ。
それは——セラとルナの母の名前だった。
「……やっぱり、母さんの痕跡だ」
セラは息を呑みながら、端末に表示されたアクセスキーを手入力した。
【承認:DNA認証一致 セラ・カナエ/ルナ・カナエ】
表示されたのは、音声と映像の断片。
画面に映るのは若き日の母だった。
重力のない空間で漂いながら、優しい声で語りかけてくる。
「セラ、ルナ。あなたたちがこのメッセージを見ている頃、私はもう——」
「……でも、悲しまないで。これは旅なの。私は、“星の命”を探しに行ったの」
「星の命……?」
「……でも、悲しまないで。これは旅なの。私は、“星の命”を探しに行ったの」
「星の命……?」
母の言葉は、まるで詩のようで、論理を超えていた。
だが次の瞬間、画面が乱れ、警告が走る。
【一部データ破損:ログ位置不明】
「ダメ……ここから先が読めない」

セラが悔しそうにタブレットを閉じたその横で、ルナが静かに言った。
「でも、わたし、わかった気がする」
「……何が?」
「“星の命”って、きっと……この宇宙の中にしかない“何か”を、ママは感じたんだよ。命の芽、みたいなもの」
「科学的根拠は?」
「ないよ。けど……感じるの。心が、揺れるの」
セラはルナを見つめた。
その顔は、いつものゆるさを残しながらも、どこか母に似ていた。
「……次の座標、出てる」
セラが指差したのは、LUNA_013が提示したマップ上の一点。
“ユーフォリア宙域――未認可観測エリア”。
そこは、まだ誰も正式に足を踏み入れたことのない、星の墓場と呼ばれる宙域だった。
「行こう」
ルナが、ためらいなく言った。
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